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真実性補題

ジャズ いつか数学

モダンジャズことはじめ Part.1 - 入門編

モダンジャズことはじめ

 これから何回かに渡り「モダンジャズことはじめ」と銘打ってジャズを今まで聴いたことが無い方を対象にジャズを紹介する記事を書いていきます。

 このPart.1では、読者の方々にとりあえずジャズ(特にモダンジャズ)を聞いてもらうことを目的としています。そのために音源もほぼ背景知識が無くても聞けるような奴を選んでいます。この記事で扱う音源を聴いていけばそれが背景知識となり次の段階に進んでいけるはずです。

 このシリーズを通して音源の聞き方について、二点言っておきます。一つ目は、出来るだけ良いイヤホン・ヘッドホンで聞いた方が良いことです。経験的に100均のイヤホンはウッドベースの音が潰れたりシンバルが聞くに堪えないシャカシャカ状態になるのでお勧めできません。 二つ目は、音源は基本的にフルで聞く必要がないことです。慣れない音楽だと5分聞き通すのも辛いし、特にアドリブの面白さは最初分かり辛いですよね。曲のテーマを聞いて何か違うと思ったらすぐ次に行っても良いと思います。このシリーズ通して結構な数の音源を紹介するはずなので、一つでも耳に引っかかって、youtubeとかで検索していって、最終的にジャズに興味を持ってくれたらこれ以上のことはありません。

 

 

音源紹介

凡例:アーティスト名 – 曲名 (その他の情報 『アルバム名』 アルバム発表年など)

 

・Art Blakey & the Jazz Messengers - Moanin'  (『Moanin’』1958)

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 この曲、よく耳にすると思います。最近だとNHKの番組『美の壺』のオープニングなんかにも使われていますね。一聴してジャズだと分かるような”らしさ”に溢れた曲です。

 この曲でファンキーなドラムを叩いているのがアート・ブレイキー(Art Blakey)で、彼は自分がリーダーとなったバンドを「the Jazz Messengers」と名付け、世界中で人気を博しジャズの普及に一役買いました。こういうファンキーなジャズが好きならArt Blakeyで検索するといろいろ見つかると思います

 曲の構成を見ると、この曲は「テーマ(~0:59)→アドリブ(1:00~7:59)→テーマ+アウトロ(8:00~)」となっています。1940年代以来モダンジャズではほぼこの「テーマ→アドリブ→テーマ」構成が踏襲されています。ポップスの曲が「Aメロ→Bメロ→サビ」という構成を大本に発展しているのと同様に、様式美というやつです。

 

Bill Evans - Waltz for Debby (『Waltz for Debby』1961)

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 ため息をつくほど美しい、と言いましょうか。ピアニストのビル・エヴァンス(Bill Evans)、ベーシストのスコット・ラファロ(Scott LaFaro)、ドラマーのポール・モチアン(Paul Motian)の三人が互いに触発しあって生み出した、本当に繊細で美しい曲です。

 ビル・エヴァンスという人は中々精神に屈託を抱えている人物で、その心の奥底に眠るものを濾過していき、宝石に変えていくことができました。その濾過作業はベーシストのラファロとの音楽的交感に依るところが多いのですが、ラファロはこの曲の収録の1週間後に交通事故で亡くなってしまいます。エヴァンスがその死を乗り越え、再びレコーディングを始めるには一年の時を要しました。

 

Bill Evans – Autumn Leaves (『Portrait In Jazz』1959)

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 こっちはもうちょっと辛口の演奏です。やはりラファロの活躍が大きいですね。彼は細かいパッセージを弾くため弦を緩めに張っているにも関わらず、ジャズベースに必要な爆音を出せる離れ業を持っていて、当時としてはかなり革新的なベーシストでした。

 ビル・エヴァンスのピアノトリオ(ピアノ/ベース/ドラムの三人編成のことをピアノトリオと言います)の面白いところは、誰かがリーダーになって引っ張っていくのではなく、三人の対等なインタープレイによって曲を作り上げたところにあります。例えばピアノソロ中にベースがウォーキング(一拍毎に一つずつ音を出すベースのスタイルを歩くさまに例えウォーキングベースと言う)をやめソロに絡むようにメロディを弾く、というのはインタープレイの一種です。

 

Sonny Rollins – St. Thomas (『Saxophone Colossus』1956)

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 ジョン・コルトレーン(John Coltrane)と人気を二分するテナーマン、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)の代表作『Saxophone Colossus』より「St. Thomas」です。

 1956年当時のロリンズは26歳の若さながら、既にその豪放磊落なスタイルを完成させていました。この曲でも頭のネジが外れたかのような底抜けの明るさを聞かせています。ソロ始めに「ブボッ ブボッ」というフレーズを連続させるあたりの展開の意外性でもう持っていかれます。曲途中にあるマックス・ローチ(Max roach)のドラムソロも光っていますね。

 

Miles Davis - 'Round Midnight (『’Round About Midngiht』1956)

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 トランペット吹きのマイルス・デイヴィス(Miles Davis)は「モダンジャズの帝王」とも称される最重要人物で、1940年代後半から晩年の1991年まで常にジャズ界に影響を及ぼしてきました。この演奏は比較的初期のキャリアになります。

 テーマ提示部ではミュート(「ワウワウミュート」で検索してみてください。ジャズの金管楽器はミュートと呼ばれる器具をベルの部分に入れて特別な演奏効果を得ます)を付け、陰鬱な雰囲気を醸し出しつつリリシズムに満ちた演奏をします。テーマとアドリブのつなぎ部分(2:44~2:57 ブリッジと言ったりします)では突如ミュートを外しトランペット特有の力強いストレートな音色を聞かせます。その後ソロをとるのはテナーサックスの二大巨頭ジョン・コルトレーン(John Coltrane)。彼はまだデビューしたばっかりで後世神格化された演奏と比べるとなんだかこなれていない感じですが、そこが逆に良い熱演です。

 あと、演奏も良いんですが曲そのものが良いんですよね。この曲を作曲したのはピアニストのセロニアス・モンク(Thelonious Monk)で、この記事シリーズでもそのうち出てきます。

 

Herbie Hancock – Maiden Voyage (『Maiden Voyage』1965)

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 1965年にピアニストのハービー・ハンコック(Herbie Hancock)が手掛け、閉塞した時代の中「窓をさっと開ける」ような鮮烈な印象を与えたアルバムです。

 ハンコックはリズム隊(ジャズだとピアノ・ベース・ドラムのこと)を旧知のマイルス第二期黄金クインテット(マイルスについては語るとキリがないので詳しくはggってください)のメンバーで固め、フロント(だいたい管楽器のことを指します)をテナーサックスのジョージ・コールマン(George Coleman)とトランペットのフレディ・ハバード(Freddie Hubbard)という二人の名脇役で固めることで、自分の思い通りの音楽を表現することができました。ハンコックはピアニストとしての腕もさることながら、この曲のように作曲家としても一流の人です。

 『Maiden Voyage』は海をテーマにしたコンセプト・アルバムで一曲目表題曲の「Maiden Voyage」以外も素晴らしい曲ばかりなので、気に入ったら是非通して聞いてみてください。

 

・Dave Brubeck - Take Five(『Time Out』1959)

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 これも有名な曲です。作曲したのはアルトサックスを吹くポール・デスモンド(Paul Desmond)。ピアニスト、デイヴ・ブルーベック(Dave Brubeck)のグループが発表し大ヒットとなりました。タイトルに「Take Five」とある通り、この曲はジャズとしては珍しく5/4拍子形式になっています。それでも違和感なくしかもお洒落なジャズとなっているので、言われないと気づかない人も多いんじゃないでしょうか。デイヴ・ブルーベックのグループはこの他にも変拍子の曲が沢山あります

 

Horace Silver – Song for My Father (『Song for My Father』1964)

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 ジャケットはピアニストであるホレス・シルヴァー(Horace Silver)の父の写真。表題曲「Song for My Father」はその名の通り父に捧げられたボサノヴァ調の曲です。ただ普通のボサノヴァと違って軽快なノリが無く、アフリカ系ポルトガル人である父の血を受け継いだかのようなドロっとした黒い感覚があります。ホレス・シルヴァーアート・ブレイキーのグループに入っていたりファンキージャズの流れを汲んだ作曲家としても名高いのですが、この曲での黒さはファンクともまた違う気がします(実際のところどうなんでしょうか、適宜突っ込みお願いします)

 

Chet Baker - But Not For Me (『Chet Baker Sings』1956)

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 インストばかりだと聞き疲れる人もいるだろうからジャズボーカルを入れておきます。チェット・ベイカー(Chet Baker)なる人は元々トランペット吹きなのですが、芸が高じて(?) ボーカルも担当し、歌とトランペットをフューチャしたアルバムを作りました。この柔らかで中性的な歌声は当時の男性ボーカル界にかなり衝撃を与えたらしいです。

 ルイ・アームストロング(Louis Armstrong)の底抜けに明るいボーカルが彼の吹くトランペットと全く同じだったように、ベイカーのボーカルはペーソス漂うトランペットの似形だったのでしょうか。

 

・Astrud Gilberto, João Gilberto & Stan Getz - The Girl From Ipanema(『Getz/Gilbert』1964)

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 テナー・サックス奏者のスタン・ゲッツ(Stan Getz)とボサ・ノヴァ歌手のジョアン・ジルベルト(João Gilberto)の共作です。ブラジル発祥のボサ・ノヴァと白人流のジャズ(ウェストコースト・ジャズ)を融合させたこのアルバムはアメリカ中で大ヒットし、これを端緒としてボサ・ノヴァ調のジャズが流行りました。どこまでがボサ・ノヴァでどこからがジャズと言われると困りますが、ともかく良い音楽です。

 

 以上で今回のモダンジャズ音源紹介を終わります

 

 

モダンジャズって何?

 ここまで地味に回避してきたのですが、ジャズとモダンジャズの定義の話をしておきま す。この記事、およびこのブログを通じて「ジャズ」という語の定義をし、何らかの共通見解を得ることはしません。だって、土台無理ですから。「ロック」や「ポップス」並みに曖昧な音楽ジャンルの名称として使っていきます。ジャズの中のジャンルであるところのモダンジャズは一応次のように定義しておきます:

「狭義では1940年代に勃発したビバップから1960年代終盤に発生した電化ジャズあたりまでのジャズ、広義では1970年代以降で狭義のモダンジャズのスタイルに従って演奏したものも含む」

 この記事のタイトルが「モダンジャズことはじめ」となっているのは40年代-60年代のジャズしか入門させねえという意思表示になっているわけです。

 

 具体的にモダンジャズではないものを見ていきましょうか。

① 70年代に興ったフュージョンと呼ばれる音楽は、ジャズと様々なジャンルのクロスオーバーを特徴としています。例としてロックの影響による電化楽器の使用が挙げられます。

Herbie Hancock – Chameleon (『Chameleon』1973)

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 これ、僕は大好きです。執拗な繰り返しで否応なしにトランス状態までブチ上がるところとか、キーボードソロの音色の歪ませっぷりとか。

② 80年代に興ったスムースジャズと呼ばれる音楽は、フュージョンから更に派生してR&Bやポップスの要素を交えたイージーリスニングなジャズです。

・Ken Navarro - Smooth Sensation

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 ここら辺は正直聞かないので全く分かりません・・・。興味を持った方はwikipediaなどを参照してください。これはジャズの文脈からよりもポップスの文脈からの方が近づきやすいのではと直感的に思います。

 基本的に時代が近いほど文脈も近くなっていくので、現代を生きる我々にはモダンジャズより最近のジャズの方が聞きやすいはずです。モダンジャズが耳にひっかからなくてもフュージョンスムースジャズが耳にひっかかったならそちらから攻めれば良いと思います。

 

 以上、モダンジャズ以降のジャズを軽く紹介しましたが、モダンジャズ以前のジャズ、モダンジャズ内でのジャンルの細分については「モダンジャズことはじめ - 歴史編」(予定)に回します。