真実性補題

ジャズ いつか数学

モダンジャズことはじめ Part.3 - 非教養編

 モダンジャズことはじめPart.3です。モダンジャズの基礎教養(を学ぶために必要最低限な文脈)はPart.1,2で紹介できたはずなので、今回は教養的でないものを紹介していきます。

 教養的でないとは、万人に勧められるものではないということです。「好きな人はとことん好きだけど嫌いな人はとことん嫌い」なアクの濃い音楽ばかりを取り揃えました。そんな音楽を紹介することには二つ理由があります。

 第一に、個性が強い分だけ教養的な音楽よりも耳にひっかかる可能性が高いということです。耳にひっかかればひっかかるほどジャズを聞く機会が多くなり、ジャズ布教というこのシリーズの表の目的にかないます。

 第二に、常識とされるような音楽を聞いていなくてもこれだけ聞いていれば常識を抑えている人から一目置かれる、ということです。音楽をファッションとして使っている感もありますが、結構マジで言っています。例えば、「ジャズ全然知らないけどRoland Kirkだけは聞きます」って人がいたら、少なくとも僕はその人のセンスと嗅覚を高く評価しますね。ジャズ初心者がちょっと探してもまず出会わない音楽なので。こういう形の音楽の需要は結構あると僕は考えています。

 教養的でないジャズを紹介するのはまたこのシリーズの裏の目的のためでもあります。裏の目的とは、「ジャズは大人の音楽」「ジャズはオシャレ」「ジャズは高尚な趣味」といったイメージをぶち壊すことです。「大人の音楽」と言うのなら「明らかに精神年齢小学生レベルの原理で作っている音楽」を、「オシャレ」と言うのなら「死ぬほど泥臭い」のを、「高尚」と言うなら「軽蔑すべきほど低俗」なのを聞かせてやりたいという逆張り精神です。その精神性の一部がこのPart.3に含まれています。あくまで逆張りなので、「小学生レベル」と言われたら「大人の音楽」を、「泥臭い」と言われたら「オシャレ」なのを、「低俗」と言われたら「高尚」なのを聞かせますが 。

 それでは音源紹介に移ります

 

 

音源紹介

Roland Kirk

・Rahsaan Roland Kirk - Volunteered Slavery (Montreux 1972)

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 これ、初めて見たとき大爆笑しました。この動画内での男の所業を並べてみると

サックスを三本同時に吹く/おもむろにゴングを鳴らす/マイクもつけず観客席に下りて練り歩く/頬を膨らませたりすぼめたりする、すると息継ぎなしで無限に吹き続ける(これは循環呼吸というテクニックです)/観客がタンバリンを叩いてるし観客がステージに上がっている/法螺貝を吹く/ホイッスルを吹く/ステージ上で椅子をぶっ壊す

となります。いや、別に馬鹿にしているわけではありません。正直に言って狂おしいほど好きだし、なんとも愛おしいし、そして一番大切なことして、その音楽の正しさに痺れます。

 既にこのライブ映像を見て気づいた方も居られるでしょうが、この男ローランド・カーク(Roland Kirk)は盲目です。盲目であるが故に、見た目の奇抜さを厭わず自分が音楽的に正しいと思ったことを思い切ってできる、カークはそういう男なのです。だからサックスを三本同時に吹くとか、サックス三本以外にも色々首からぶら下げているだとか、椅子をぶっ壊すとかの異様な行動も、あくまで正しい音楽をするためのものです。もう少し正確に言うと、ライヴ・パフォーマンス的意味合いも大いにあるのでしょうが、全部音楽的に必要な行動だったんだろうと最終的に思わせるだけの説得力を彼の音楽は持っています。

 外見的な奇抜さから当時の評論家に「道化師」「怪人」などと揶揄されたカークですが、素直な心を持っていれば非常に受け入れやすい音楽だと思います。その点、小学生の方が下手にジャズを聞いた評論家よりよっぽど正しくカークを評価できるのではないでしょうか。

 他にも、鼻でフルート吹いたり鼻でリコーダー吹いたりとパワーのあるライブ映像は沢山あって、更に爆笑できることにそこから良い演奏が生まれているので、カークを気に入った方は色々探してみてください。

 

Roland Kirk – Fly By Night (『The Inflated Tear』1968)

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映像はパワーがありすぎて音楽に集中できない可能性があるのでアルバムからの音源を紹介しておきます。やっぱりカッコいいですね。

 

 

Kieth Jarrett 

・Kieth Jarrett – The Koln Concert part 1 (『The Koln Concert』1975)

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 ピアニストのキース・ジャレット(Kieth Jarrett)による、完全即興演奏によるピアノソロです。形容しがたいほど甘美であると同時に、異界に引き込まれていくかのような感覚があります。この美しさはキースにしか出せない味です。26分聞き続けても飽きません。

 

 ……でもこのおっさん、「唸る」んです。とてつもなく残念な声で。

Keith Jarrett Trio - On Green Dolphin Street (Tokyo, 1986)

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 1:40から唸っています。中腰になってクネクネするのは(結構視覚に訴えてくるとはいえ聴覚に関係ないので)構いません。でも、唸り声はピアノの美しい音との対比を必然的に作り出し、しかも音量も大きいものだから甘美なピアノに集中できなくなります。何とかならないものでしょうか......。*1

 唸るピアニストの第一人者(?)といえばバド・パウエル(Bud Powell)なのですが、彼の場合は熱いピアノを弾くあまり自然と感情が漏れ出てくる、という感じなので全然問題にならないし音楽的にもアリです。他方、キースは甘美さが武器ゆえ唸り声は完全にミスマッチしています。天はなぜ彼に音楽の才能と唸り声を与えたのでしょうか。そろそろファンの方に怒られそうなのでやめます。

 ともかく、『The Koln Concert』は殆ど唸らないキース・ジャレットが聞けるので、唸り声に耐性が無い方にもお勧めです。

 

 

Thelonious Monk

Thelonious Monk Quartet - 'Round Midnight (Norway, 1966)

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 イントロから怪しげなものを弾いているのがピアニストのセロニアス・モンク(Thelonious Monk)です。40年代初頭ビバップの誕生(=モダンジャズの誕生)の時期に出現した彼は、長いキャリアの間ずっとジャズ界最大の謎であり続けました。今だって謎です。

 突き刺すような強い打鍵、曲に合っているとは思えない不協和音的なバッキング*2、独特の「間」……ピアニストとしてオンリーワンのスタイルを持っています。

 また彼は、作曲家としての顔も持っています。例えばジャズ界きっての名曲とされる「'Round Midnight」もモンク自身の作曲です。彼が作る曲は彼のピアノスタイルとはまた違った意味で独特な響きを持っていますが、その響きは不思議と耳に馴染みます。

 

もうちょっと聞いてみましょう

Thelonious Monk - Brilliant Corners (『Brilliant Corners』1957)

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 謎の構成をした自作曲です。テナーはあのソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)が吹いているのですが、彼の達人といえども難解過ぎるテーマを通して吹くことができず、結局部分的に上手くいったテイクを繋ぎ合わせてお茶を濁したようです。一方モンクはそんなことを気にせず我が道を行っています。

 

Thelonious Monk – Blues Five Spot (『Misterioso』1958)

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 僕の贔屓のジョニー・グリフィン(Johnny Griffin)がテナーを吹いています。こっちは楽しそうなライブです。

 

Thelonious Monk – Dinah (『Solo Monk』1965)

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 これは珍しく自作曲ではなく、1925年に発表された古い古いポピュラー・ソングです。この演奏のスタイルはストライドピアノ風で、彼がバップピアノよりもっと古い、ストライドピアノやビッグバンド*3の"公爵"たるデューク・エリントン(Duke Ellington)のピアノに影響されていることが分かります。歴史的には、モンクを聞いたバド・パウエルがバップピアノを完成させるのです。

 モンクの音楽の中には、古き良きアメリカの暖かさや泥臭さ(をモンク風に捻じ曲げたもの)と、不協和音や強い打鍵の生む背筋の凍るようなクールネスが同居しています。ある側面ではとてもウォームなのに、別の視点から見ればとてもクール、という矛盾性。他にも多種多様な謎があって、しかしそれらは決して解かれることがなく、死してなおミステリアスな存在であり続ける。謎そのものが彼の魅力の一つなんじゃないでしょうか。

 

 

Albert Ayler

Albert Ayler – Ghosts (『Spiritual Unity』1964)

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 この記事中唯一のフリージャズです。フリージャズとは何か、というのは愚問でしょう。聞けば分かります。

 しかし、これは本当にフリージャズと言ってよいものでしょうか。あらゆる既成概念を破壊しているように聞こえます。その既成概念の中にはおそらく「ジャズ」という概念も含まれているように思えます。おそらく、こういった思考は全て無意味なのでしょう。アルバート・アイラー(Albert Ayler)のテナーによる咆哮は、あらゆるカテゴライズを否定し無化する暴力を、一要素として含んでいます。彼の咆哮によって真実性の無い考察は全て無化されます。

 ちなみに、アイラーのテナーは滅茶苦茶やっているように初見では思うかもしれませんが、よくよく聞くととても綺麗な音色をしているのです。個人的には『Spiritual Unity』でのテナーの音色にとても癒されます。どんな劇物も時が過ぎれば毒が抜けていくもので、「アイラーに癒される」のもアイラーの死から46年もたった今では許される聞き方ではないかと思います。癒しの目的でアイラーを人に勧めようとは考えもしませんが。

 

 

Miles Davis

Miles Davis - Directions ( 『Live At The Fillmore East』1970)

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 大音量で聞いてください。とぐろを巻くかのようなベース、ドラムの疾走感、突き刺すようなエレクトリック・ピアノ、悲痛に叫ぶテナーサックス、そして何よりも暴力的なマイルスのトランペット!

 「ジャズの帝王」マイルス・デイヴィス(Miles Davis)は、70年代においてモダンジャズの殻を破り新たな領域に突入しました。電化楽器の使用、大胆な編集、他ジャンルとの融合によって特徴付けられるこの音楽は、強いて言えばフュージョンジャズロッククロスオーヴァージャズファンク*4......ジャンル分類は無理なので止めておきましょう。「70年代マイルス」とだけ言っておきます。*5クールネスはマイルスの生涯に通底していますが、70年代においてそれは最も暴力的な形をとりました。

 

Miles Davis - Call It Anything (1970)

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 やっぱり大音量で聞きましょう。ここには最良のクールと暴力があります。ライブの名前が「Call It Anything(何とでも呼べ)」になっているのもマイルスらしい皮肉であり、超クールです。実質的には歴史的名盤『Bitches Brew』などから持ってきた既存曲のメドレーなのですが、ライブ中に一切曲説明をしません。始まるときはドラムが適当に叩き始め、終わるときは自分の出番は終わったと思った人間から次々と舞台裏に帰っていきます。とてもクール。

 

Miles Davis - So What (『Four and More』1964)

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  これは70年代マイルスではなく、1964年の演奏なんですが、マイルスのソロにとても「力」を感じたのでついでに紹介しておきます。『Kind Of Blue』の「So What」は発表から5年後、ここまで加速します。

 このライヴでマイルスに次いで優れているのは、ドラムのトニー・ウィリアムス(Tony Williams)でしょう。若干19歳にして、彼のライドシンバル捌きは歴史に残りました。

 

 

Charles Mingus

Charles Mingus – Haitian Fight Song (『The Clown』1956)

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 冒頭、岩を割るようなぶっといベースを弾いているのが、この節で紹介するチャールス・ミンガス(Charles Mingus)です。ミンガスはジャズ界で一二を争うテクニック及び表現力を持つベーシストですが、同時に作曲家、そしてグループリーダー・サウンドクリエイターとしての側面を持っています。サウンドクリエイター部分に着目すると本当にいろんな顔があって、とてもこの短い節で紹介できるものではありません。この演奏でのミンガスは「少人数のコンボ*6でビッグバンドのような音量と音圧と構成をぶちかますミンガス」になります。

 ベースソロから始まって輪唱のようにテーマ(当然自作)が重なり、音量と音圧がどんどん上がっていきます。ミンガスが雄たけびを上げる頃には完全にテンションがブチ上がります。その勢いのままボーンソロに入るわけですが、ここからもサウンドクリエイターの顔が見え隠れ、突然倍テンポになったり(2:45~3:02)、静かになったり(3:03~3:22)と工夫を凝らします。ベーシストとしても常にソリストを煽り、構成もソリストを煽り、とソリストは良いソロをするよう迫られるわけです。

 

Charles Mingus – Better Git it In Your Soul (『Mingus Ah Um』1958)

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 6/8拍子の自作曲です。こちらもソロの途中でアンサンブルが入ったり、ソロ以外楽器演奏を止めて手拍子を始めたり(3:35~)と、面白い構成で聞かせます。ミンガスはジャズ以外の様々な音楽要素を曲に取り入れることがあって、この演奏の手拍子はゴスペルの影響をモロに受けています。

 『Mingus Ah Um』というアルバムの何が良いかというと、ミンガス自作曲のショーケースになっているのもそうなんですが、サックスの音響が良いんですよね。テナーのブッカー・アーヴィン(Booker Ervin)やアルトのジョン・ハンディ(John Handy)の音色が光ります。

 

Charles Mingus – Folk Forms No.1 (『Mingus Presents Mingus』1960)

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 たった四人、アルトサックス・トランペット・ベース・ドラムのたった四人で、ここまで密度の高い音楽が展開可能なんだと示した作品です。

 この演奏ではミンガスの構成力が爆発していて、一人のアドリブソロに対して他の三人が自然に絡んでいき、インタープレイが生まれます。だからまるで四人同時にアドリブソロを取っているかのような混沌状態に陥るのですが、それでも一線引いたところに明確な秩序があって、”正しく”聞こえるのです。もう訳が分かりません。

 

 ミンガスについてはまだまだ紹介しきれない部分が多数あるので、また別の機会に紹介記事を用意しようと思います。

 なお、『Mingus Presents Mingus』でアルトサックスを吹いているのがあの怪物エリック・ドルフィー(Eric Dolphy)です。彼については既に初心者向けの記事を書いているので適宜ご覧ください。

c-manifold.hatenablog.com

 「ジャズ全然詳しく無いけどエリック・ドルフィーだけは聞きます」って言えたら絶対""曲者""っぽくてカッコいいですよ。ぜひ聴いてみてください。エリック・ドルフィーを聴け。

 

 

Part.3および「モダンジャズことはじめ」シリーズ全体での音源紹介は以上になります。長々とお付き合い頂きありがとうございました。この次は歴史勉強回なので、興味のある方だけお付き合い下さい。

 

 

 

*1:ピアノではなく唸り声を聞くと専らの噂の訓練されたキースファンの方にとって不快な表現をしている事を深くお詫び申します。

*2:ソロ裏でギターやピアノなどの楽器がコード進行に合わせ和音を弾くことをバッキングと言います。

*3:30年代に流行したジャズバンドの編成のこと。詳しくは「Part.4 - 歴史編」参照。

*4:いずれも70年代に隆盛した音楽ジャンル。ジャズと言い難い側面もある。詳しくは「歴史編」参照。

*5:人にジャズについて問われたときも「ジャズは全然知らないけどマイルスだけは聞く」ではなく「ジャズは全然知らないけど70年代マイルスだけは聞く」と正確に言いましょう。ニュアンスが全然違います。

*6:ビッグバンドと対比した文脈での少人数編成のこと